ナナ(나나)

原題
나나
著者
イ・ヒヨン
出版日
2021年10月1日
発行元
チャンビ
ISBN
9788936459574
ページ数
216ページ
定価
13,000ウォン
分野
YA

●本書の概略

「体から魂が抜け出したら」という面白い設定から始まった作品。
主人公は18才女子高生のハン・スリと17才高校生のウン・リュウ。ある日、交通事故で病院に搬送された二人は、知らない男の声で目を覚ます。事故の衝撃で体から魂が飛び出てしまったようで、その男、つまり狩霊(魂のハンター)からは一週間以内に体に戻らないと彼らの魂はあの世にいかないといけないという。
しかし、飛び出てしまった魂はそう簡単に自分の体に戻れない。スリの体は魂が戻ってくるのを拒否し、リュウの魂はむしろ自分の体に戻らなくても平気のようだ。結局二人は「魂のない自分」の日常を観察することになる。
スリは何事も完璧を追求するので、自ら設けたルールを破る体を魂は許せない。自分の体よりも今までの成果やイメージ、周りからの評価がもっと大事なのだ。
リュウは、病弱だった弟のために何でも譲る良い子に育った。明るくて人当たりのいいイエスマンだが、心の中には抑え込んでしまった感情がある。
しかし体から離れた魂だからこそ見えてくるものがある。それは自分の本当の気持ち。今まで目を背けてきた自分の感情、望みだ。拒否する体と魂を理解しながら徐々にその距離を縮めていく二人は、幸い一週間になるその日、無事自分の体に戻る。

本書は韓国で30万部を超える大ベストセラーとなり、日本でも翻訳出版されて話題となった『ペイント』((2021年、イースト・プレス)の作家イ・ヒヨンの新作長編小説。設定自体も興味深い上、現実と非現実がうまく混ざり合っているので一気に物語の中に入っていける内容だ。タイトルの『ナナ』は、魂としての「ナ」(わたし、自分)と肉体としての「ナ」が分離された状況を意味する。本当の自分に出逢うための過程、その旅を経験してほしいとの願いが込められているのだ。

 

●目次

プロローグ
第1章 失くした魂
第2章 置き去りにした魂
第3章 誤解した心
第4章 恐れる心
狩霊※の1回目の書
第5章 すまない自分へ
第6章 背けた自分へ
第7章 気づきのプレゼント
第8章 最後のプレゼント
狩霊※の2回目の書
戻った時間
作者の言葉

●日本でのアピールポイント

体から飛び出てしまった自分の魂が、いつも通りに暮らす自分の姿を眺めるのはどんな気分だろう。そもそも魂なしでもその日常に変化がないという設定には少しぞっとしてしまう。
魂、それは言い換えれば「本当の気持ち・心」「本当の自分」だと言えるだろう。だから、外向きの体と内向きの魂との乖離が大きければ大きいほど不幸になる。その意味で主人公の高校生二人が苦しむ姿は決してその年頃だけの悩みではないはず。
他人との物理的な距離ができた今の時代だからこそ、今度は自分の中を見つめ直し、その距離を縮められるチャンスかも知れない。特にありのままの自分を愛せない人や心の奥底にため込んでしまった言葉や感情のある人にぜひ読んでもらいたい一冊だ。
因みに本書の分類はYA(ヤングアダルト)だが、ヤングでも、アダルトでも安心して読める内容だ。本当の自分、ありのままの自分を認めてあげるためにも、人にやさしく、「自分にもやさしく」生きるヒントを得られるだろう。

(作成:孫 鎬廷)

イ・ヒヨン
短編小説『人が住んでいます』で2013年第1回キム・スンオク文学賞新人賞大賞を受賞し、本格的な作品活動を始めた。2018年『ペイント』で第12回チャンビ青少年文学賞を受賞し、さらに同年『きみは誰だ』で第1回ブリッGロマンススリラー公募展大賞を受賞した。その他長編小説『サマーサマーバケーション』、『普通のノウル』などがある。なお、邦訳作品として原書と同じタイトルの『ペイント』(2021年、イースト・プレス)がある。