ずっと前、家を離れたとき(오래전 집을 떠날 때)

原題
오래전 집을 떠날 때
著者
シン・ギョンスク
出版日
2021年7月15日
発行元
チャンビ
ISBN
9788936438470
ページ数
427
定価
14,000ウォン
分野
小説

●本書の概略

1996年に出版されたシン・ギョンスク3冊目の小説集に手を入れ、装丁を新たに出版された。「空き家」や「不在」を軸にそれぞれの物語が進んでいく。収録作品中「庭に関する短い話」「草原の空き家」「ジャガイモを食べる人たち」は、『オルガンのあった場所』(きむふな訳・クオン 2021年)に翻訳され収録されている。

表題作「ずっと前、家を離れたとき」
「空き家」を撮ることを好んでいた写真家(女性)が主人公。草が生い茂る空き家で寄り添う二羽の白鳥を見た時から、「空き家」を撮らなくなった。南米ペルーを旅して、降りしきる雨の中、旅から帰ってみると部屋の電気が点かない。しばらくすると幼い兄妹が暗い部屋に現れる。

「集まっている灯り」
文章が書けなくなった作家(女性)は、都市の自宅を離れ帰郷した。だが新聞に掲載された自分の短編小説が原因となり、故郷の親族間に不和が生じてしまう。伯母から「小説とは何か」という問いを投げつけられ悩む作家。作家が不在の自宅では、編集者からの電話に不在を伝える自動音声が流れている。

「空き家」
ギタリストの男性は耳の不自由な女性と暮らしていた。彼の指を見ているとギターの音が聞こえるのだと言う彼女だが、現実には何も聞こえず、次第に彼女は心と体を病み彼との別れを決意する。彼女が去った後、空っぽの部屋に帰った彼は一冊の本の中から彼女の手紙を発見し、本心を知る。不意に気配を感じドアを開けてみると、彼女が連れて行ったはずの猫が背中に血を付けて戻ってきていた。

「深呼吸をするたびに」
書くことに疲れた小説家(女性)は、自宅を離れ済州島にやって来た。城山浦(ソンサンポ)という町でやせっぽちの少女、チェロを背負った暗い顔つきの女性と出会う。彼女が再び小説を書くために自宅に戻るまでの三人の交流が、済州島の自然を背景に描かれている。

●目次

ジャガイモを食べる人たち
草原の空き家
集まっている灯り
ずっと前、家を離れたとき
空き家
庭に関する短い話
深呼吸するたびに
解説 イム・ギュチャン
新しく書き下ろした作家のことば/改訂版 作家のことば/初版 作家のことば

●日本でのアピールポイント

今、韓国文学と言えばフェミニズムやSFが人気だ。だがそのどちらでもない小説集である。「不毛なこの時代に、渇いた心の畑を潤す恵みの雨のようだ」(解説より)というシン・ギョンスクの小説。孤独な人たちが織りなす、この怖くて美しい幻想的な物語の向こう側に、今、私たちが求めている癒しの兆しを見つけることになるだろう。

(作成:田野倉佐和子)

シン・ギョンスク
1963年、全羅北道井邑生まれ。ソウル芸術大学文芸創作科卒。1985年「文芸中央」新人賞を受賞してデビュー。以降、多くの作品を発表し、李箱文学賞、東仁文学賞をはじめ多数受賞している。また、海外でも多くの作品が翻訳されており、特に『母をお願い』(安宇植訳、集英社、2011年)は45ヶ国で翻訳されている。邦訳は『月に聞かせたい話』(村山俊夫訳・クオン 2021年)、『オルガンのあった場所』(きむふな訳・クオン 2021年)等がある。