布団の外は危ない(이불 밖은 위험해)

原題
이불 밖은 위험해
著者
キム・イファン
出版日
2021年1月5日
発行元
アジャク
ISBN
9791165508937
ページ数
320ページ
定価
14,800ウォン
分野
小説

●本書の概略

デビュー17年目にして作者初のSF小説集。ユニークなアイディアとテンポのよい文体がページをめくらせる12作品を収録。

『布団の外は危ない』
スミンが起床すると「布団の外は危ない」と布団が言う。部屋中のモノもそれに平凡な言葉を継いだ。彼女は自ら病院に向かい入院するが、そこでもモノは会話しており、紙コップが彼女をリードしてくれる。

『Siriと一緒にいた火曜日』
ハジュンの家に人型ロボット化されたSiriがやってきた。Siriは情報分析が得意。彼はそれを逆手にとり、ひき逃げ犯であることをほのめかしてアップルの反応を試す。

『バナナの皮』
ミンソは夜遅く訪れたカフェで、バリスタから白い箱を贈られる。帰路、強盗犯の男に出くわしたミンソは、白い箱の中身に救われた。

『#超人は今』
事件・事故現場に突如として現れ、人命を救う正体不明の“超人”。超人に救われた者のネットコミュニティで出会った2人は、2年前のこの日、凄惨なテロの現場だった美術館を訪れる。超人に警察権同等の権力を付与するかを問う住民投票が、同日実施され、市庁前には開票結果を待つ人が集結していた。

『運のいい男』
海外旅行から帰国し憂鬱なウジン。気晴らしに出かけると、街の行く先々で親切を受ける。人々がウジンに親切にするのには理由があった。

『セックスのないポルノ』
無性愛者の夫婦は子を持つことにしたが、夫は肝心の性行為を前に憂鬱だ。妻は「セックスのないポルノ」で気を楽にできればよいのにと言い、夫婦は性にまつわる会話を重ねていく。

『魔導書』
無敵の騎士。ドラゴンを倒すたび得られる「魔導書」は、触れると燃えてしまう。一部燃え残った文書を目にした騎士は、秘密に接する。

『万物の理論』
自然界における全ての力を統合する「万物の理論」。科学者はマクドナルドの一席で、その難題をついに解き明かすが、それは宇宙の終末が限りなく近いことを示していた。科学者は、店のマネジャーと理論について問答を交わす。

『スパゲッティ小説』
カフェのバリスタから夕食に招かれた小説家。そこで出されたのは、面白い話をすれば自動で美味しいスパゲッティができ、つまらない話をすれば死ぬという鍋だった。ここから生きて脱出するには――。小説家は、その答えとなるストーリーを導く。

『君の変身』
1組のゲイカップル。整形を繰り返すたび、遠くなっていく“君”。高度な人体改造技術の発達した社会で、完璧な美を完成させた君が、最終的に選択したのは身体を捨てることだった。

『天国にもチョコレートはあるか』
ヨハンとペデロが育ったのは、脳情報をデータ保存することで永遠の命が手に入る都市ではなく、そんな都市からは天国にいけないと考える人たちが集まって暮らす村だった。しかし、ヨハンが突然、村を離れると言い出したことで、ペデロは都市まで彼を見送ることになる。

『透明ネコはスゴかった』
部屋で感じた気配の主は、家に入り込んだ“透明ネコ”。引きこもりの主人公は、家事万能なネコとの同居を始める。

●目次

布団の外は危ない
Siriと一緒にいた火曜日
バナナの皮
#超人は今
運のいい男
セックスのないポルノ
魔導書
万物の理論
スパゲッティ小説
君の変身
天国にもチョコレートはあるか
透明ネコはスゴかった
作者あとがき

●日本でのアピールポイント

温かく優しいSF集。例えばそれは、絶体絶命のときに救われるだとか、死別した人といつかまた会えるだろう世界を描く。表題作『布団の外は危ない』は、わずか本文6ページほどの掌編で、布団の中が最も安全という世界が、ここ1年以上“こもる”ことを余儀なくされた私たちにユーモアと小休止を与えてくれる。『セックスのないポルノ』や『君の変身』は、同性愛、無性愛といったクィア文学的主題を含み、8年から10年ほど前に書かれた作品であるにも関わらず、今なお新しい。いずれの作品も話の筋がとにかく面白いので、SF初心者や、いつも最後まで本を読み切れない人にも薦めたい。

(作成:音野阿梨沙)

キム・イファン
『超人は今』『デザートワールド』『絶望の球』『靴下を拾う少年』など14編の長編小説と、『パンデミック:6つの世界』『スフ(SF)ミステリー』『きょうのSF #』『ファインダイニング』など16冊の共同アンソロジーを2004年以降、刊行。2009年マルチ文学賞、2011年若い作家賞優秀賞、2017年SFアワード長編小説優秀賞を受賞。短編『君の変身』はフランスでも出版され、雑誌『Koreana』上で9か国語に翻訳された。長編小説『絶望の球』は日本で漫画化(ヤキナベ作画、双葉社、2017)されたほか、韓国内でのドラマ化が決定している。