●本書の概略
暮らしの中にもっとアートを、というコンセプトのもと、官民アート活動の今を考える著者による2作目。暮らしのアートとは、毎日の暮らしに根づいた芸術、文化を意味する。ポストコロナの時代を迎え、アートがもつ意味や役割はさらに重要になっている。2020年、世界保健機構(WHO)は世界中のあらゆる世代で最も多かった疾病がうつ病であったと発表した。韓国でも10~30代の若年層でうつ病の増加が深刻な問題になっている。将来が見えない、という不安が大きな理由の一つであろう。かつてユングが‘中年期の憂鬱’と言っていた世代がより若年化したとも言えるし、コロナ禍が社会や経済の変化を一層加速させている。こうした状況の中で、アートを通して人とつながり、暮らしに活力を得て将来を見すえるようになった人々、そこから新たに生まれる社会の姿を描いた一冊である。]
●目次
プロローグ: 転換の時代 暮らしのアートがもつ新しい役割
1部 ライフスタイルの変化とデジタルノマド
01. ポストコロナ時代、アートの役割 : 経験としての暮らしのアート
02. ‘生活アート’とライフスタイル:コモンズで人を作る生活のテクノロジー
03. IT時代のデジタルノマド 暮らしのアート:スキルが暮らしのアートと出会う方法
2部 ローカリティと暮らしのアート 政策パラダイムの転換
01. 市民の日常を守る共同体をつくれるか?
02. サポートする中間組織と市民のイニシアティブ
03. 暮らしのアート活動の社会的役割と意味
04. 生活文化政策の変化と争点:‘地域文化振興基本計画’を中心に
3部 生きること、そしてアートを生きること
01. 図書館、生活をアップサイクルする
02. 21世紀の巨大な転換:自律的なエコ共同体としてのコモンズへ
03. DIT(Do It Together)で町を再生する
エピローグ:転換の時代 対談
●日本でのアピールポイント
コロナ禍ではデジタルを通してアートに触れる機会が圧倒的に増えた。本書では絵画、写真、ドローイングなどを鑑賞できるサイト、ユーザーのVR体験ギャラリーやAIギャラリーを紹介している。文化政策については共同体に住む個人の趣味を重んじる流れになっているということだ。自治体においても住民の声を行政に伝えるだけではなく、住民が直接政策を作り実行するレベルを目指している。これはヨーロッパや日本とは異なるより積極的なアプローチだ。自主的に協同運営されているヌティナム図書館の試みや、店舗,街並みなどをDIT=共に作るという感覚は、共同体=コモンズの意味を再認識させる。アートが持つパワーをあらためて考えるきっかけになる一冊である。
(作成:前田 田鶴子)