●本書の概要
ソウル大学国語国文学のパン・ミンホ教授が一年半かけソウルを歩き、韓国文学史に名を刻む十人の作家・詩人とゆかりのある場所を記した一冊。三越百貨店(現・新世界百貨店)の屋上から見たソウルの風景、1930年代の普信閣など、作品が書かれた当時のソウルの様子がわかる写真が多数掲載されている。また、文学作品からの引用などを織り交ぜた、国文学教授ならではの解説が、当時の作家・詩人たちの姿を浮かび上がらせている。
●目次
冒頭の言葉
詩や小説にまつわる物語があるソウルを訪ねて
1章 飛ぼう もう一度だけ飛んでみようよ
極端な時代を洞察する イ・サン(李箱)『翼』
2章 星をうたう心で
純粋さを追い求める凄絶な苦闘のなかで ユン・ドンジュ(尹東柱)『序詩』
3章 これは善なのか?悪なのか?
欲望と罪悪感の二重国籍者 イ・グアンス(李光洙)『有情』
4章 ひとつの喜びを求めて歩く
ソウルの呼吸と感情 パク・テウォン(朴泰遠) 『小説家仇甫氏の一日』
5章 すべての働く女性の恋人
哀れな都市を愛する女性 イム・ファ(林和)『四つ角のスニ』
6章 月日は行きかうもの
人生の虚しさを胸深く吸い込む パク・インファン(朴寅煥)『木馬と淑女』
7章 空が曇り 草が伏す
参与の詩ではなく存在の詩 キム・スヨン(金洙暎)『草』
8章 義理や良心を売り渡して生きるものたち
漢江の対岸から向けられた第三者の視線 ソン・チャンソプ(孫昌涉)『人間教室』
9章 私にもこれが立派な職業なんだ
余り者を排除した都市 イ・ホチョル(李浩哲)『ソウルは満員だ』
10章 生きたい 死にたい
戦後の廃墟で見つけた人生の意味 パク・ワンソ(朴婉緒)『裸木』
ソウル文学紀行地図
参考資料
●日本でのアピールポイント
2020年12月に、六十人の作家を紹介した『韓国文学を旅する60章』(明石書店)が発刊された。本書は作家数ではそれに及ばないものの、十人の作家の作品、人柄、生活、他の作家たちとの交流などを深く掘り下げていく。たとえば、詩人・ユン・ドンジュ(尹東柱)の章では、チョン・ビョンウク(鄭炳昱)の懐古談が引用される。それによると、鍾路区楼上洞の下宿で暮らしていたユン・ドンジュは、朝食前の仁王山への散歩が日課で、延禧専門学校(現・延世大学校)の授業が終わると、至誠堂、丸善などの書店を巡った後、買った本を音楽喫茶で読んだ。また、面白そうなプログラムがあるときは明治座(現・明洞芸術劇場)で映画を観ることもあったそうだ。
韓国文学に関心を持ち始めた人から、既に様々な作品を読んだ人まで幅広く楽しめる本書は、作家ゆかりの場所を巡るガイドブックとして楽しめるのはもちろん、作家たちの生きた時代に思いを馳せながら、ソウルの路地を自宅で逍遥できる一冊になっている。