●本書の概要
地域住民の健康や生活を守り、町全体が健康になることを目指す「サルリム(生活、暮らしの意)医院」のフェミニスト医師によるエッセイ。医院での診療や往診時のエピソードをはじめ、フェミニズムに関心を持つようになった経緯や日常に潜む性差別、患者や地域住民から学んだこと、住民と信頼関係を築いていく過程、自身が目指す「町のかかりつけ医」の姿を、ユーモアを交えた率直な言葉で綴る。5ページ前後のエッセイ約60篇を収録。
●目次
プロローグ
1章:タルンイ(ソウル市の公共レンタサイクル)に乗る、町のかかりつけ医
2章:フェミニスト医師になるのは簡単ではない
3章:彼女たちが私に
4章:薬ではなく関係で治療する
5章:私たちにはかかりつけ医が必要だ
エピローグ
付録:かかりつけ医を持ちたいときは
●日本でのアピールポイント
本書はフェミニズムと地域医療という二大テーマを扱っている。一見あまり関連がないように思える両者に共通しているのは「誰もが平等に、健康に生きられる社会を目指す」という普遍的な考えだ。「フェミニズムだけで良い社会を作るのは難しいが、フェミニズムなしに良い社会を作ることはできない。私たちは差別や嫌悪がどれほど健康を害するかよく知っているからだ」という言葉が、著者の信念を端的に表している。具体的には性差別や性犯罪、性的少数者や障害者を取り巻く環境、認知症、介護、看取り、かかりつけ医制度といったものについて、韓国での現状や問題点、著者の取り組みなどが紹介されている。いずれも日本にも共通する社会的事象なので、フェミニズムに関心のある人や医療・介護職のみならず、多くの人に身近な問題として興味深く読んでもらえるのではないだろうか。誰もが差別を受けずその人らしく生きられる健全な社会には何が必要か、あらためて考えるきっかけとなり、そのためのヒントも得られる意義深い本だと思う。堅苦しくない平易な言葉で書かれ、専門用語もわかりやすく説明されている。
作成:牧野美加