私は神々の療養保護士です(나는 신들의 요양보호사입니다)

原題
나는 신들의 요양보호사입니다
著者
イ・ウンジュ
出版日
2019年11月1日
発行元
ヘルツナイン
ISBN
9791186963418
ページ数
303ページ
定価
13,800ウォン
分野
エッセイ・人文

●本書の概略

療養保護士である著者は、認知症や寝たきりで手厚い看護が必要なお年寄りを「ミューズ」「ゼウス」と呼ぶ。懸命に人生を生き抜き、いざ生と死の境にさしかかった彼らを神々に置き換えることで、自分が行うケアが、より優しく、礼儀正しくなることを願うからだ。

療養院の過酷な労働環境にあっても、担当するミューズやゼウスに誠心誠意向き合い、心の声に耳を傾け、可能な限り人間としての尊厳を守ろうとする。しかし現在の制度の下では、そのような介護は介護者の心身をひたすら疲弊させるばかりだ。著者もまた、そうした現実の前で打ちひしがれ、孤立し、傷つき、ついには挫折する。

冒頭では療養院での日々が語られ、その後、ボランティアに始まって現在の訪問介護に至るまでの道のりが、時に自身と家族の話も交えながら事細かに語られる。それは療養保護士として、人として、何事にも誠実に向き合う著者の、思いの全てが詰まった魂の記録だ。

※療養保護士……日本では介護福祉士やホームヘルパー1級・2級にあたる。

●目次

プロローグ

1部 療養院での一日

2部 ボランティアから療養保護士になるまで

3部 デイケアセンターでの一日

4部 在宅訪問介護の日々

5部 私は療養保護士です

書面インタビュー

エピローグ

●日本でのアピールポイント

日本の書籍の翻訳家であるイ・ウンジュが、優れたエッセイストでもあることを示した。

彼女の文章は思わず顔をそむけたくなるような空間を、静謐で温かく、尊厳に満ちた空間に変えた。韓国の読者もこの点を高く評価しているようだ。高齢化率が世界一高い日本では、すでに関連する書籍は枚挙にいとまがないが、現役の介護従事者が著した、これほど文学性の高いエッセイは他に類を見ないのではないか。著者とミューズたちとの心の交流を描いたくだりでは、自分が本当に受けたい介護とは何かを改めて考えさせられる。

本書は、出版を念頭に、随時ブログに綴った文章をまとめたものだ。その時々の出来事や感情が、確かな文章で物語のように語られ、読み応えがある。また、辛いときに慰められた詩として、宮澤賢治の「雨ニモマケズ」の全文が紹介されるなど、若き日の6年間を日本で過ごし、言葉や文化に精通した著者の作品は、日本の幅広い層の読者に親近感を持って迎えられるだろう。

作成:大窪千登勢

イ・ウンジュ
1969年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科に留学し、翻訳家になる夢を育てる。卒業し帰国するが、弟の入院により、その子供たちの養育を担うことになる。いくつもの職をかけ持ちしながら必死に働き、生活を支えた。そして現在、療養保護士として働きながら、未婚の母となった姪の子供まで育てるが、どんな状況にあっても文学に対する思いは変わらなかった。通勤電車の中や職場の休憩時間にも翻訳を続け、出版された作品はすでに十数冊に及んでいる。 主な翻訳書の原書に、清水正著『宮崎駿を読む』(鳥影社、2001年)、同『ウラ読みドストエフスキー』(清流出版、2006年)、藤谷治著『船に乗れ』全3巻(ジャイブ、2008年)などがある。