●本書の概略
LGBT(ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダー)など性的少数者の子を持つ親と当事者の計24人が、カミングアウトにまつわるそれぞれの体験をまとめたもの。カミングアウトを受けたときの衝撃や混乱、受け入れられるようになるまでの過程、カミングアウトするまでの葛藤やその後の心の変化などが、自分の言葉で率直に綴られている。
●目次
1章 おまえのことをありのままに愛してるよ―性的少数者の父母の話
2章 あなたのそばにもいる人―性的少数者の話
性的少数者の父母と当事者たちによる座談
執筆者紹介
性的少数者の関連用語集
性的少数者に関する人権団体、相談所、資料
●日本でのアピールポイント
性的少数者である子からカミングアウトを受けた親と、家族や周囲にカミングアウトした(あるいはしていない)当事者の、双方の思いや体験を知ることができる。カミングアウトに関して悩みを持つ当事者や家族にとって大いに参考になるだろう。カミングアウトを受け入れて性的少数者の人権運動をしている親や、まだ受け入れられないが理解しようと努力している親、カミングアウト後、家族からの暴言に苦しんだ当事者、親にはカミングアウトするつもりがないという当事者など、体験談の内容は十人十色だ。だが共通しているのは、カミングアウトは性的少数者が自分らしく生きるための第一歩であるのに、実行するのは容易ではないという点だ。
カミングアウトが容易でないのは、カミングアウト後に予想される偏見や差別への不安が大きな理由であることが、同書を読むとよくわかる。偏見や先入観は無知から生まれることや、性的少数者は一般的に考えられているより身近な存在であることも。LGBT総合研究所(東京)が2019年に実施したアンケートでは、10人に1人が「自分はLGBTに該当する」と答えており、これは左利きの人の割合とほぼ等しい。一方で、全回答者の8割強は「周囲にLGBT当事者はいない」、当事者の8割弱は「カミングアウトしていない」と回答している。これらの結果から、周囲に性的少数者がいないと思っていても、実際には、カミングアウトしていない性的少数者が身近にいる可能性が少なくないことがうかがえる。
日本では近年、性的少数者やその権利に関する社会問題がクローズアップされている。2015年にスタートした「同性パートナーシップ制度」を導入した自治体は、19年12月現在、全国30カ所にのぼる。お茶の水女子大学は20年度からトランスジェンダー女性の入学を受け入れる方針を発表した。このように性的少数者への社会的対応が変化しつつあるなか、社会を構成する一人ひとりにも意識改革が求められるだろう。性的少数者やカミングアウトが自分とは無関係ではないことを認識し、性的少数者への差別や偏見、嫌悪をなくすにはどうすべきかを考えるうえでも、同書は大いに役立つだろう。当事者や家族に限らず、多くの、幅広い年代の人に読んでもらいたい一冊だ。
作成:牧野美加