●本書の概略
「どの家にも、その家にしかない世界がある」
家との関わりを通した人々の経験と生活には、価値観・習慣・生活水準・文化などが深く浸透している。家が人に与える影響とはどれほどなのか、家が人の生活をどのように変えるのか。作者はこの疑問を胸に、年齢も職業もバラバラの14人に、自分が覚えている最初に住んだ家についてインタビューし、建物や間取りのイラストと共に本書にまとめた。単なる幼少期の記憶に触れるだけでなく、韓国住居の建築様式や時代の移り変わりを探求する一冊。
●目次
1.農村住宅
2.都市単独住宅
3.商店併設住宅
4.多家口住宅
5.連立住宅
6.計画都市のアパート
7.アパートキッズ、廊下式アパート
●日本でのアピールポイント
建築が好きな人や興味のある人はもちろん、建築に興味がない人、韓国の建築の知識がゼロの人でも、本書は十分に楽しめる。
近年、再開発が急速に進められている韓国の住居環境や景観についても触れている部分が多い。ソウルなどの大都市を始め、古い建物が立ち並ぶどこか懐かしい風景は、画一的な高層ビルの森に変わりつつある。韓国に何度か足を運んだことがある人なら、前回行った場所が丸きり様変わりしていた経験を持つ人も少なくないだろう。このような、自分が育った場所や知っている場所が姿を変えてしまう喪失感は、日本でも共感できる読者が多いはずだ。また、最近のミニマルライフの流行で失いつつある、我々の「余裕」についても言及している部分がある。生活空間の「無駄に見える部分」が私たちの生活に「余裕や遊び」を与えてくれることもあるのだ。誰かの幼少期の記憶から、今の暮らしの問題点まで考えさせられる。
しかし、本書の一番の魅力は、作者が知りたがっていた「家を通しての生活や経験」がふんだんに書かれている点だ。14人の人生を覗き見た気分になる。
本書を読むうちに、きっと「自分の最初の家の記憶」を辿りたくなるはずだ。
作成:松原佳澄