明日は満月です。夜空を見上げて月を愛でたのはいつでしょうか?咲き始めた桜と満月ともに楽しんでみてはいかがでしょうか。今回ご紹介するのは、『日本語で読みたい韓国の本-おすすめ50選』第4号より、『恋しいものはすべて月にある』です。
●概略
月を愛し、月を旅行し、いろいろな月で生きるようになった詩人、クォン・テウン。彼は、明るく澄み渡って温かい月のエネルギーを受けとって、月の詩を書き、月の絵を描きます。詩人だから詩を書くのは当たり前ですが、絵を描くとなるとまた別です。絵は正式に習ったこともないし、きちんと描いたこともありませんでした。それが、ある日、月を眺めていたら心に月が浮かび、月の絵を描けるようになったのです。月の絵に、手書きで詩を添えはじめました。
1日ひとつずつ絵と詩をフェイスブックやSNSに載せたところ、人びとから好評を博するようになりました。そして、いつのまにか、その詩は「月の詩」と呼ばれるようになったのです。 著者の温かい視線と心が伝わる詩と絵、私たちが忘れた昔のことをよみがえらせ、はるかな未来に思いをはせさせてくれます。そして、今を生きる私たちにもっとも大切なのは、今この瞬間を生きるために最善をつくすことだと教えてくれるのです。
● 試訳
「紫の月」
赤と青が出会って建てた家
あまりに熱くて途方に暮れて
冷たさに傷ついて過ごした日々
君の屋根は青く塗って
私の悲しみは赤く塗って
境界ではなく たがいに染まって暮らす家
その紫の家に暮らしたかった
一人いることが花であり
さびしさがあかりになる家
そうして、痛んで美しい傷が
香りになる紫の月に
小さな魂が育つ
(131頁)
「春のなかの春」
花が月の光の下に降っている
だれかが来て、また行ったのだろうか
この夜、その明るさと熱さに
気を失う花を見て
この世を生きていく
すべての華やかで美しいものは
さびしいと思う
目を閉じて眺めても
明るいそのなかを前世と呼ぼう
ふとはるか昔の春の日を思い出すような
春のなかの春のなかの春…
(189頁)
「花の月」
別れも月のように明るかったなら
暗闇のなか
埋められるのではなく
消えるのではなく
映るものだったなら
根っこまで明るい
花の部屋のなかで眠り
深くて遠い、ある日
ある光があなたのまぶたに触れたら
ああ、月が生む花として咲き
またおいで
別れがこのように明るかったなら
夜道を行くのではなく
来るのだったなら
春の夜に咲く明るい花の月のように
生きている人たちの陰を
消すものだったなら
(217頁)
●日本でのアピールポイント
夜空を最後に見上げたのはいつだっただろう。月に話しかけたのはいつだっただろう。
鮮やかな都市のネオンサインになじんだ私たちは、いつしか澄んで温かい月を忘れてしまった。そして、前だけを見て生きている。
「あの月まで行ってください」
酒に酔うとタクシーに乗って、月まで行きたいと無理をいう詩人がいる。月にいる恋しいものに会うために、毎晩夜空を見上げる。
本を開くと最初に目と心を明るくする月の絵と月の詩がつづく。そこには「あなたがこの世界で温かく幸せであってほしい」という著者の願いがこもっている。
疲れた体と暗い夜を照らす月の優しさが心に届き、一人で泣かないことを願う。月を見て人生を愛することを願う。あなたに会うために今夜も月が窓辺に浮かぶ。