『こちら、空港医療センター 救急ドクター奮闘記』(シン・ホチョル 著/ 渡辺麻土香 訳/ 原書房)

韓国との行き来に空港を利用することも各段と増えたものの、その裏側で支えている「空港医療センター」なるものの存在そのものを正直意識したことはなかったので驚きとともに読み進めました。
一番驚いたのは、世界からやってくる人々、時には飛行中の飛行機内での緊急事態に備える「空港医療センター」が一定以上の規模の空港には設置は義務付けられているにも関わらず、空港公社からの多少の支援はあるもののその運営そのものは、センターの運営費を自らで賄っていかねばならない、しかも国からの支援はないということ。
そんな環境の中で仁川空港にある医療センターの院長として奮闘するシン・ホチョルさんがあるテレビ番組に出演したことでその存在を大きく知らしめることができたものの、そのすべてを伝えきれなかったという思いを込め、さまざまな経験や患者とのエピソード、そして飛行機を利用する前に考えて欲しいアドバイスなども織り込んだエッセイです。
軽快な文章には温かい人柄があふれ、旅する人たちの安全を心から願う言葉の数々はぜひ多くの人に読んで欲しいと思う一冊でした。

翻訳を担当された渡辺麻土香さんからも推薦のメッセージを頂戴しました。

世界中の老若男女が集まる国際空港の病院の記録は、犯罪や自然災害、戦争などに端を発した手に汗握るスリリングな診療から、空港職員や近隣住民との心温まる交流まで、どこをとってもドラマチックで、考えさせられるものばかり。
世界の縮図ともいえる空港だからこそ垣間見れる景色は、映像化してもきっと面白いだろう……と思ったら、実際に「愛の不時着」や「海街チャチャチャ」などを手掛けた制作会社が既にドラマ化権を獲得しているとのことでした。
コロナ禍が明け、海外旅行が再び盛んになってきた現在。本書を読んで空港の陰の功労者たちの奮闘に思いを馳せたり、旅先や日常で使える医療的豆知識を習得して、より快適な旅行を楽しんだりしていただければ幸いです。

『こちら、空港医療センター 救急ドクター奮闘記』(シン・ホチョル 著/ 渡辺麻土香 訳/ 原書房)