上・下巻合わせて、約1000頁にもわたる長編の警察小説でミステリー小説、チャン・ガンミョン著『罰と罪』。20年前に起きた未解決事件を再捜査することになった新米女性刑事のジヘとその仲間たちの捜査の進展が綴られていく偶数章と、犯人の独白が綴られる奇数章の2本立て。しかも犯人はロシアの小説家、ドストエフスキーの作品に心酔し、哲学を語っていきます。
警察内部の捜査の有様はとても具体的に描かれながら次第に犯人に迫っていく様子にグイっと惹き込まれ、片や自身の哲学思想を語る犯人の独白は時に難しくもありながら、今まであまり読んではいないドストエフスキー作品の魅力を感じることもできる1冊で2つの作品を同時に楽しめる贅沢な作品でした。
2月(コメント部隊」)、3月(ケナは韓国が嫌いで」)と日本でも相次いで映画も公開されるチャン・ガンミョン作品。今回の作品もまた映像を頭に描きながら読んでみてはいかがでしょうか?
翻訳を担当されたオ・ファスンさんから推薦のメッセージも頂戴しました。
本書は、著者自身がターニングポイントとなる作品、と位置付けている野心作です。全100章からなり、奇数章は犯人の独白、偶数章は再捜査の過程が描かれています。奇数章での自称、奇怪な哲学をもつ犯人の思想と、偶数章での登場人物の抱える苦悩を交互に読み進めることで、2000年以降の韓国社会の変遷や、功利主義を基盤にした現代社会のシステムのひずみがおのずと見えてきます。社会派ミステリの形式で現代のシステムとは誰のためのものなのか、一石を投じるのが著者の狙いですが、推理小説の醍醐味でもある衝撃のラストもしっかり用意されています。ミステリと哲学書を合わせたような、なかなか手ごわい作品ですが、その重みと奥深さにうならされる一作です。
オ・ファスンさんにさらに詳しく作品の魅力や翻訳についてお話を伺った「K-BOOKらじお」はコチラからお聞きいただけます。
⇒ https://youtu.be/-VS9gsI-j_A?si=XtzI6yMvbhC1ngGG
『罰と罪 上・下』(チャン・ガンミョン 著/オ・ファスン 訳/ カン・バンファ 監訳/ 早川書房)