『ひとりだから楽しい仕事 日本と韓国、ふたつの言語を生きる翻訳家の生活』(クォン・ナミ/著、藤田麗子/訳、平凡社)

副題の通り、日本と韓国、ふたつの言語を生きる翻訳家の生活を30年以上にわたり続け、手掛けた日本文学の翻訳はなんと300冊以上!という韓国の翻訳家クォン・ナミさんのエッセイ。前書きの一節からして読む者を魅了する。
 「~ひとつに絞って才能を伸ばしていくという長所もある。」
 「あぁ、本当にいつも思うことだけれど、8割が運によって決まってきた というコスパ最高の人生だ」
こんな風に物事を捉え、そして軽やかに言葉を紡ぎ出せる人の手に掛かった翻訳はどれだけ魅力的だろう、そう思わせてくれる一冊だ。
作品の翻訳を手掛けた翻訳者の藤田麗子さんからもメッセージをいただきました。

韓国でいまだ根強い人気を誇る岩井俊二監督の『Love Letter』(2020年のクリスマスにも5度目のリバイバル上映が行われたほど!)。その小説版の翻訳を手がけたのが、本書の著者クォン・ナミさんです。ほかにも、小川糸『食堂かたつむり』、群ようこ『かもめ食堂』、三浦しをん『舟を編む』、角田光代『紙の月』、恩田陸『夜のピクニック』、吉田修一『パレード』、天童荒太『悼む人』をはじめ、実写映画化された人気小説を多数翻訳。また、村上春樹のエッセイ、小川糸、益田ミリ作品を韓国で最も多く訳しています。

300冊以上もの日本文学を訳し、キャリア30年超えの今もなお「寝ていても、ガバッと起き上がって翻訳を続けたくなるほど仕事が楽しい」(韓国のインタビューマガジン『topclass』2022年10月号より)という天性の翻訳家。そんなクォン・ナミさんの作業効率をダウンさせる最大の敵とは⁉ ヒヤリとした誤訳のエピソード、著者の前での発言を思い出してふとんの中でのたうち回った夜、柚木麻子『BUTTER』を訳した後に初めて買ったエシレのバター……など、気軽に読めて共感できるエピソードが満載です!

(藤田麗子)

『ひとりだから楽しい仕事 日本と韓国、ふたつの言語を生きる翻訳家の生活』(クォン・ナミ/著、藤田麗子/訳、平凡社)