『戦争日記 鉛筆1本で描いたウクライナのある家族の日々』(オリガ・グレベンニク /著、渡辺麻土香/訳、河出書房新社)

異色の一冊が韓国で刊行され話題を集めました。ウクライナの絵本作家、オリガ・グレベンニクさんが侵攻前夜から始まる地下室での避難生活、ハリコフ(ハルキウ)からリヴォフ(リヴィウ)、ポーランドを経てブルガリアへ逃れる過程を絵と文章で綴ったドキュメンタリーです。オルガさんの絵と文章がSNS(Instagramストーリー)で公開されているのを見た韓国の出版社が書籍化を提案し、原書もないままに4月に韓国で刊行されたドキュメンタリーです。その作品はすでにイタリア、ドイツ、ルーマニア、フィンランドほか世界各国で翻訳され、ついに日本語版も刊行されました。
韓国人作家の作品ではありませんが、現在なお紛争が続いている中、一般市民たちがそこに巻き込まれ、必死で生き抜いていく様は、同時進行に今綴られているからこそ、迫るものがあり、それを韓国の出版社が全世界に届けようと刊行したことに大いに意味があるものと思い、ここでも紹介いたします。

翻訳にあたった翻訳者の渡辺麻土香さんからもメッセージをいただきました。

本書はロシアによるウクライナ侵攻から2人の幼い我が子を守るべく、祖国を離れざるを得なかった絵本作家の避難生活の記録です。
「韓国語の本」として紹介されているのは、混とんとした避難生活を送る著者から日記の写真を受け取った韓国の出版社が、世界に先駆けてそれを本にしたから。韓国語版にはロシア語監修を受けた日本語版とは異なる訳も含まれており、一日でも早く出版しなければという露韓翻訳者の使命感と焦りも見られます。
また本書の原文は、いまや敵の言語になってしまったロシア語で書かれています。奈倉有里さんが解説されているとおり、著者はあえてリスクを冒し、自身の母語を使って「わたしは民族で人を分けない」という強い信念を表しました。
そうした背景や思いにも心を寄せて読んでいただければと思っています。(渡辺麻土香)

『戦争日記 鉛筆1本で描いたウクライナのある家族の日々』(オリガ・グレベンニク /著、 奈倉有里/監修、渡辺麻土香、チョン・ソウン/訳、河出書房新社)