『北朝鮮の食卓 食からみる歴史、文化、未来』(キム・ヤンヒ/ 著、金知子/訳、原書房)

「衣食住」は生活の基盤となるものであり、コミュニティの文化を特徴付けるものですが、その中の「食」に注目して「北朝鮮」を語った本が出版されました。『北朝鮮の食卓 食からみる歴史、文化、未来』(キム・ヤンヒ/ 著、金知子/訳、原書房)。北朝鮮の食文化や制度、郷土料理などを写真とともに豊富に紹介した作品です。郷土料理の章では作り方が詳しく書かれてあり、読み続けていると思わずお腹がなってしまいます。また、秋夕(チュソク)の前日に食べるノチでは、黄晳暎(ファン・ソギョン)のエッセイが、咸興の毛ガニを紹介するところでは白石(ペク・ソク)のエッセイが引用されるなど、様々な文献も紹介されていて、関心が高まります。私が食べたいと思った料理は、ノチと咸興の毛ガニはもちろんのこと、黄晳暎が最も印象に残っていると語ったという凍カムジャククスや、海州ビビンバ(海州攪飯)。
南北首脳会談や米朝首脳会談で出された料理とそれにまつわるエピソードもとても興味深いです。そうそう、大同江ビールには1番から7番まで番号がついていて、味に違いがあることを本書で初めて知りました。訳者の金知子さんからメッセージをいただきましたので、ご紹介します。

海州攪飯、チョレンイトッ、カジェミ食醯、ノチ……。
耳慣れない単語が並んでいますが、これらは本書に登場する北朝鮮の郷土料理の一部です。チヂミやトッポギのように日本でも手軽に食べられるようになった韓国料理ですが、その一方で北朝鮮料理となると「平壌冷麺」しか思い浮かばない人も多いのではないでしょうか。
本書は、「北韓学」を学んだ元記者が、食べ物を切り口に北朝鮮を語る人文書です。1部では、配給制度などの食料政策や「苦難の行軍」期以降の市場の拡大が北朝鮮の人々の食生活にどのような影響を与えてきたのかについて、2部では、北朝鮮の郷土料理や自慢の酒など21品の歴史やレシピ、その料理にまつわる話について、3部では南北関係や米朝関係を中心に、国家間の関係改善に貢献してきた食べ物について書かれています。料理はもちろん、玉流館をはじめとした有名店の写真なども数多く掲載されているので、ページをめくるたびに新鮮な情報が目に飛び込んできます。また、著者が訪朝した際に出会った人とのエピソードなど、私たちが普段知り得ない北朝鮮の人々の姿を垣間見ることができるのも、この本の魅力です。ひとつでも食べてみたい料理を見つけていただければうれしいです。
この本との出会いをきっかけに、9月の訪韓時には開城の郷土料理が食べられる店を訪問しました。初めて食べる「チョレンイトッ」や「開城マンドゥ」のおいしかったこと! 韓国でも味わえる北朝鮮の郷土料理を探してみるのも面白いのではないでしょうか。(金知子)

『北朝鮮の食卓 食からみる歴史、文化、未来』(キム・ヤンヒ/ 著、金知子/訳、原書房)