『君という生活 』(キム・ヘジン /著、 古川 綾子/訳、筑摩書房)

現代社会のゆがみを疎外されている人々の視点で描いてきたキム・ヘジンによる短編集『君という生活』(古川綾子訳、筑摩書房)が出版されました。
『娘について』(古川綾子訳、亜紀書房)では、同性のパートナーをもつ娘に対する母親の揺れ動く感情が、『中央駅』(生田美保訳、彩流社)では、路上生活を送る男女を通して格差社会が描かれていました。『君という生活』では、互いに親しいと思っていた「君」と「私」が、住宅問題や経済格差などさまざまな問題によってすれ違っていく様子が多彩に繊細に描かれています。訳者の古川綾子さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

短編集『君という生活』は日本語で読める4冊目のキム・ヘジン作品になります。彼女が描く物語には主流から疎外された人、そんな彼らに向けられる嫌悪や排除などが多く登場しますが、本作のテーマはずばり隔たりと格差。
どの登場人物もお互いを大切な存在だと思っているのに、感情の度合いや収入差、住居の差といった問題に直面するにつれ、これまで知らなかった相手の一面が見えてきて、ふたりの間には埋められない隔たりと格差が生じていきます。
『君という生活』のもうひとつの特徴に人称代名詞が挙げられます。どの登場人物も名前がなく、最後まで「私」を表す一人称の「나」、「君」を表す二人称の「너」のまま話が進むのですが、韓国語の一人称と二人称は、それ単体では年齢や性別といった人物像を想起することができません。
近年の韓国文学はジェンダーレスな表現を使う作家が増えてきており、この手法も意図的な試みだと思うので、日本語に訳す際もできるだけ反映させようとしたのですが……。日本語の人称や会話の語尾などから役割語を完全に排除するのはとても難しい作業でした。
皆さんならどう訳すか、どうしてキム・ヘジンさんは性別の見えにくい書き方をされたのか、そんなことを考えながら読んでいただけたらうれしいです。(古川綾子)

「聴いて、読んで、楽しむ★K-BOOKらじお」第9回目のゲストは古川綾子さん。『君という生活』をはじめ、これから刊行予定の本など3作品の魅力について語っていただきました。ぜひご視聴ください。

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『君という生活 』(キム・ヘジン /著、 古川 綾子/訳、筑摩書房)