『我らが願いは戦争』(チャン・ガンミョン/著、小西直子/訳、新泉社)

前職が新聞記者というだけあって、「自分たちの時代を扱う作品を書きたい」と語り、韓国社会の問題点を背景とした作品を発表し続けている作家チャン・ガンミョン。『韓国が嫌いで』(吉良佳奈江訳、ころから)につぐ2冊目の邦訳書『我らが願いは戦争』(小西直子訳、新泉社)が出版されました。
韓国の人の心に深く根付いている歌「我らが願いは統一」。この歌を覆すようなタイトルに度肝を抜かれましたが、社会性とエンターテインメント性を併せ持った大作です。金王朝が崩壊してゾンビ国家となった北で暗躍する麻薬組織。組織に立ち向かう謎の男と北の女性たちに南の兵士たち。「北朝鮮の現政権が勝手に崩壊し、統一過渡政府が樹立する--」という敏感な設定を扱っていながらも、緻密な取材に基づいて書かれているので、とても臨場感があります。手に汗握る展開は先が気になって仕方なく、500頁というボリュームでも一気に読める作品です。著者からの「日本の読者の皆様へ」によれば、映画化が進められていて、ヒョンビンさんが主演を引き受けてくれたらと妄想されているとか……。キャストは誰がいいかと想像しながら読むのも面白いと思います。
訳者の小西直子さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

記者出身の作家チャン・ガンミョン先生の渾身の長編小説です。北朝鮮の金王朝が勝手に崩壊するという、「韓国で最善のシナリオとみなされている状況」が現実になった後の朝鮮半島という仮想の世界を舞台に繰り広げられるスリリングな社会派アクションで、簡潔明瞭かつ疾走感あふれる文章とストーリー展開に、どんどんページをめくらされてしまいますが、その一方で、朝鮮半島の実情や南北の人々の認識、庶民の苦労や悲哀、夢なども細やかに描かれていて心に迫ってきます。統一による社会の変化、それに伴う混乱の真っ只中で、様々な思いを抱えながらひたすら前を向き、懸命になすべきことを模索する登場人物たちはみな、悪役でさえも一本筋が通っていて魅力的。やや強面の人物が多い中、登場するたびにクスリと笑わせてくれるキャラもしっかり控えているところがまたミソです。作品を発表するたびに違った顔を見せてくれるチャン・ガンミョン先生の力作、お楽しみいただけたら幸いです。(小西直子)

『我らが願いは戦争』(チャン・ガンミョン/著、小西直子/訳、新泉社)