「上京」(ファン・ジョンウン短編集『誰でもない』)

柿の木の実が大分色づいてきました。イチョウの木の根元にも銀杏が転がっていて、こうした秋の光景を眺めると、ファン・ジョンウンさんの短編「上京」(『誰でもない』斎藤真理子訳 晶文社)にあった唐辛子摘みのシーンを思い出します。寂れた農村を訪れる、都会での生活に疲れた若者たち。都会の生活をやめて農村で生活するとしても、何も手にしていない自分はここでもやはりやっていけないだろうと彼らは考えます。出口の見えない重苦しさのある作品ですが、登場人物の心の機微、風景描写がとても丁寧で、自分もその場にいて同じ光景を見ているような気になってきます。