いま、君に詩が来たのか

「シカダ賞」や「ストルガ詩の夕べ金冠賞」など海外の文学賞も数多く受賞している、今韓国で最も注目すべき詩人、高銀(コ・ウン)。6407573
1933年に出生し、道で拾ったハンセン病患者の詩集をきっかけに詩人を志します。初期の詩は、生きることに対する意志や執着よりも死の影の方が濃かったのですが、1970年代以降は、民主化運動に積極的に参加し、投獄・拷問を経験したことで、正義を貫けない社会への熾烈な闘争認識を、民衆中心の歴史観に基づいて多く詠っています。

『피안감성(彼岸感性)』、『머나먼 길(はるかに遠い道)』、『만인보(萬人譜)』、『 순간의 꽃(瞬間の花)』など、たくさんの詩集を刊行しています。邦訳作品としては、『いま、君に詩が来たのか-高銀詩選集 』(青柳優子・金應教・佐川亜紀訳 藤原書店)が有名です。同書から、「日本の読者へ」と題した前書き(抜粋)と2編の詩をご紹介します。

日本の読者へ

私の詩もまた何か鎮魂の言語であることを願っている。だから、韓国語の宿命の中で生まれた私の詩が一つの塊として彷徨うことを夢見ぬわけにはいかない。
韓国語の海の向こうに日本語があること、中国語があること、そしてベトナム語がある幸福と、それらの言語の境界を越える幸福で私は独りではない。
こういう私の言語が日本語の友情によって新しく生まれたことは詩の行路をあらためて悟らせる。なぜなら、詩はあるところから他のところへ行くことを詩自身の生としているからだ。そうだ。詩がある国の響きなら、その響きはやがて他国の旅人になるのだ。今なおあのシュメール時代の詩が今日の旅人として生きている事実と違わないように。  

 

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今 眺めるだろう
過ぎたものがすべて覆われている雪道を
冬中 さすらって来て
ここ見慣れぬ土地を眺めるだろう
私の心の中に初めて
雪が降る風景
世の中は今 静まり返り黙考している
通り過ぎたどの国にもなかった
ときめく平和として覆われるだろう
眺めるだろう あらゆることの
見えない動きを
雪が降る空は何なのか
降る雪の間で
耳を澄まして聞こえたのは大地の告白
私は初めて耳を持ったのだ
私の心は 外は雪道
内は闇なのだ
冬中 世をさすらってから
今やっと偉大な寂寞を守ることで
積もった雪の前で
私の心は闇なのだ
(『彼岸感性』1960年)  

 

ある喜び

今 私が思っていることは
世界のどこかで誰かが思ったこと
泣かないで

今 私が思っていることは
世界のどこかで
誰かが思っていること
泣かないで

今 私が思っていることは
世界のどこかで
誰かがちょうど思おうとすること
泣かないで

どんなにうれしいことか
この世界で
この世界のどこかで
私は無数の私によって作り上げられた
どんなにうれしいことか
私は無数の誰かと誰かによって作り上げられた
泣かないで
(『まだ 行かない道』1993年)