本でつくるユートピア

 塩野七生氏よる『ギリシア人の物語』の刊行が昨年末スタートしました。不朽の名作『ローマ人の物語』は、韓国でもハンギル社より1995年から2007年にかけて刊行されてベストセラーとなりました。その人気ぶりは、塩野七生氏と行くローマツアーが開催されたほどです。翻訳・刊行からロングセラーに至る経緯、韓国読者の驚くべき反応について、『本でつくるユートピア 韓国出版 情熱の現代史』(金彦鎬著 舘野晢訳 北沢図書出版)に詳しく書かれています。

「当初、塩野七生先生の本を企画したとき、ハンギル社の著者や知識人たちは否定的だった。果たして読んでもらえるかとい41SYc6LwzsL._SX352_BO1,204,203,200_うもので、それを出すことにどれほどの意味があるのか、という疑問も提起された。

 読者50名に翻訳原稿をあらかじめ読んでもらって意見交換をする、いわゆる「試読会」を初めて試みるなど、いくつもの「演出」をして本の内容や価値を知ってもらおうとしたが、読者からの反応があれほど大きくなるとは、こちらもまったく期待しておらず、予測もできなかった。韓国で1995年から刊行を開始した『ローマ人の物語』は、私たちの期待と予想を一気に飛び越え、韓国人と韓国社会の意識と行動を変化させる強力なモチーフになった。
何がそうさせたのだろうか。私たちはこの驚くべき読者の反応と読書欲を、「塩野現象」と規定してみた。韓国社会が『ローマ人の物語』のような本、こうした理論や物語を求めていたのだろう。時代はその時代にふさわしい本を生み出すからだ。」(169頁)

「21世紀のこの国際化時代に、朝鮮半島という狭い国土で短時間のスピード成長をとげてアジアの主要国に躍り出た韓国であるが、『ローマ人の物語』は、この国家社会を創出していく私たちに多くの示唆を与えてくれると、教訓的な読後感が送られてくる。とくに5回、10回と繰り返し読む「マニアックな読者」が多いのも、『ローマ人の物語』をめぐる読書現象というか、読書風景である。」(179頁)

 著者の金彦鎬氏は1968年から1975年まで「東亜日報」に記者として勤務していましたが、自由にものを言えない当時の 韓国ジャーナリズムにおいて、言論の自由を確保すべく、出版社「ハンギル社」を立ち上げました。 「ハンギル」は「ひとつの大きな道」という意味です。『本をつくるユートピア』には、発禁処分や投獄を経験しながらも「一冊の本は時代と社会を変える」を信念に 良書の刊行に心血を注いできた著者の壮大な歩みが記されています。