2019年「今年の本」と保安旅館(韓国通信)

 書店「Yes24」が、読者投票で選んだ2019年の「今年の本」24冊と「今年の表紙」12冊を発表しました。投票者数はそれぞれ約29万5千人、約25万人でした。
 第17回となる「今年の本」はさまざまなジャンルの232の候補作から1位にキム・ヨンハのエッセイ『여행의 이유(旅の理由)』(文学トンネ)が選ばれました。同作は教保文庫の2019年の年間ベストセラーでも総合1位となっていて、その人気ぶりがうかがえます。2位は人気ユーチューバー、パク・マンネのエッセイ『박막례, 이대로 죽을 순 없다(パク・マンネ、このまま死ぬわけにはいかない)』(ウィズダムハウス)、3位はイム・ホンテクの人文書『90년생이 온다(90年世代がやって来る)』(whalebooks)でした。
 第2回「今年の表紙」は編集者やデザイナーの推薦した64の候補作から1位に『パク・マンネ、このまま死ぬわけにはいかない』、2位はキム・チヘ著『선량한 차별주의자(善良な差別主義者)』(チャンビ)、3位はキム・ヨンハ『旅行の理由』が選ばれました。その他の投票結果はこちらから見られます。今年の本(https://bit.ly/2ZIbEnQ)今年の表紙(https://bit.ly/2QD7ucw)
 どちらにも上位ランクインした『パク・マンネ―』は、70代で思いがけず人気ユーチューバーとなったパク・マンネさんが波瀾万丈の人生を振り返って書いたものです。パクさんは家族のために働き通しの人生を送ってきましたが、ある日、認知症のリスクがあると告げられます。それを聞いた20代の孫娘は会社を辞め、パクさんとオーストラリア旅行に出かけます。現地で撮影した動画をユーチューブで紹介したところ話題となり、それを機に二人でユーチューバーとして活動するようになったそうです。チャンネル登録者数は現在116万人にのぼります(チャンネル名:Korea Grandma)。
 今年の本と今年の表紙の計36冊は、1月12日までの1カ月間、ソウルの景福宮迎秋門(西門)の向かいにある「保安1942」2階の書店「保安書店(BOAN BOOKS)」で展示されています。「保安1942」は17年にオープンした複合施設で、保安書店のほかに、ゲストハウス「保安ステイ」(3、4階)、カフェバー「33MARKET」(1階)、展示スペース「ART SPACE保安2」(地下1階)、展示や公演などの多用途スペース「保安クラブ」(地下2階)が入っています。

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保安1942という名前は、渡り廊下でつながる古びた木造建築物「保安旅館」に由来します。天井の修理中に「上棟式 昭和十七年」(1942年)と書かれた木板が見つかったことから、日本統治期の1942年に建てられたとみられています。ですが、詩人の徐廷柱(ソ・ジョンジュ)が自叙伝『天地友情』に「1936年秋、咸亨洙(ハム・ヒョンス)と私は二人で通義洞の保安旅館というところで寝起きしながら、金東里(キム・ドンリ)や金達鎮(キム・ダルジン)、呉章煥(オ・ジャンファン)などとともに『詩人部落』という同人誌を出すことになった」と記していることから、1936年にはすでに旅館として存在していたことがうかがえます。正確な建築時期は不明ですが、保安旅館は李箱(イ・サン)や尹東柱(ユン・ドンジュ)、李仲燮(イ・ジュンソプ)など、多くの文人や画家なども利用していたそうです。

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 2004~05年に保安旅館が廃業となったあと、07年に現オーナーが買い取って改修し10年にギャラリー「通義洞保安旅館」に生まれ変わりました。そして、17年に保安1942が建てられ、渡り廊下でつながれたというわけです。現在、通義洞保安旅館は保安1942の展示スペースの一つ「ART SPACE保安1」という位置づけとなっています。展示作品もさることながら、歴史を感じる梁や柱など当時の旅館の雰囲気を色濃く残す建築物としても非常に興味深いです。(文・写真/牧野美加)

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