教保文庫、11月の月間ベストと新刊(韓国通信)

教保文庫の11月の月間ベストセラー(国内小説)と注目の新刊をご紹介します。映画公開を機に首位に返り咲いた『82年生まれ、キム・ジヨン』に次ぎ、昨年、チャンビ新人小説賞を受賞したチャン・リュジンの『仕事の喜びと悲しみ』が一気に2位につけました。

1位:『82년생 김지영(82年生まれ、キム・ジヨン)』 チョ・ナムジュ著(民音社/2016.10.14)
2位:『일의 기쁨과 슬픔(仕事の喜びと悲しみ)』チャン・リュジン著(チャンビ/2019.10.25)
昨年、チャンビ新人小説賞を受賞した表題作は同社のウェブサイトに公開された直後から話題となり、累積アクセス数が40万件に上る爆発的な人気を得ました。審査委員から「短く機敏なジョブを繰り出す、軽いステップのボクサーを連想させる」などと評された表題作をはじめ、主に20~30代の会社員の話を描いた計8篇を収録しています。
3位:『아몬드(アーモンド)』ソン・ウォンピョン著(チャンビ/2017.3.31)
4位:『물 만난 물고기(水を得た魚)』イ・チャンヒョク著(スカ/2019.9.26)
5位:『빛의 과거(光の過去)』ウン・ヒギョン著(文学と知性社/2019.8.30)
6位:『최선의 삶(最善の生)』イム・ソラ著(文学トンネ/2015.7.17)
7位:『직지(直指)1』キム・ジンミョン著(サムアンドパーカーズ/2019.8.1)
8位:『날씨가 좋으면 찾아가겠어요(天気がよければ訪ねていきます)』イ・ドウ著(時空社/2018.6.28)
この長編小説を原作としたテレビドラマが来年上半期に放映予定で、キャストが続々と発表されるなか、原作への関心も再び高まっています。
9位:『우리가 빛의 속도로 갈 수 없다면(私たちが光の速度で行けないならば)』キム・チョヨプ著(ホブル/2019.6.24)
新鋭SF小説家キム・チョヨプの小説集。今年の民音社「今日の作家賞」を、ハン・ジョンヒョンの長編『ジュリアナ東京』とともに受賞したことが11月下旬に発表され、注目を集めています。「興味深い科学的仮説をもとに登場人物の自己省察過程を描き出す、独特な試みを成功させた」という審査評が寄せられました。
10位:『천년의 질문(千年の質問) 1』チョ・ジョンネ著(ヘネム出版社/2019.6.11)

新刊コーナーでは、以下のような作品が目を引きました。

ハン・スンウォンの『신화의 늪(神話の沼)』(ソルクァハク/2019.11.25)。帯には「私が『蓮の花の海』と命名した、私の海に対する愛」と書かれています。現代文学賞や韓国文学作家賞、李箱文学賞、大韓民国文学賞、韓国小説文学賞など多くの文学賞を受賞している彼は、ハン・ガンの父親としても有名です。邦訳された著作に、「トンネル」『韓国現代短編小説』(安宇植訳/新潮社)、『塔』(安宇植・安岡明子訳/角川書店)、「海神の沼」『韓国の現代文学5』(姜尚求訳/柏書房)があります。

1210神話の沼

 

 

 

 

 

朴景利(パク・キョンニ)初期の長編『성녀와 마녀(聖女と魔女)』(マロニエブックス/2019.12.02)。1960~61年、女性誌に連載された著者初の恋愛小説で、古くからの風習や観念を打ち破る破格の内容だと、当時、話題を集めました。2003年にインディーブックからも単行本が出版されました(絶版)。69年に映画化、2003~04年にはドラマ化もされました。著者の大河小説『土地』の邦訳本は、間もなく11巻が刊行予定です。
2011年『일곱 개의 고양이 눈(七つの猫の目)』で韓国日報文学賞を受賞したチェ・ジェフンの2番めの短編集『위험한 비유(危険な比喩)』(文学と知性社/2019.11.25)。人間と機械、画家と肖像画、退魔師と幽霊、などさまざまな緊張関係の中でかすかにうごめく生命力の物語を繰り広げます。
「変化を牽引する多様な声」「今もっとも必然的なテクスト」という副題がついたSFムック『오늘의 SF(今日のSF) 1号』(arte/2019.11.27)。超短編~中編の新作小説(キム・ヒョンジェ、キム・イファン、パク・ヘウル、デュナ、キム・チョヨプ、ヘ・ドヨン、キム・チャンギュ)をはじめ、エッセイ(チョン・ヘジン、チョン・ボラ)、ク・ビョンモに関する評論(キム・ジウン)、インタビュー(ヨン・サンホ、聞き手イ・ダヘ)、インタビュー(ペ・ミョンフン、聞き手チェ・ジヘ)、コラム(オ・ジョンヨン、キム・ウォンヨン、ファン・ヒソン)、レビュー(イ・ジヨン、チョン・ソヨンチョン・セラン、イ・ガンヨン、デュナ)という充実の内容です。

1210聖女とー、七つのー、SFムック

 

 

 

 

第13回金裕貞(キム・ユジョン)文学賞作品集『호텔 창문(ホテルの窓)』(ウネンナム/2019.11.08)は、受賞したピョン・ヘヨンの表題作をはじめ、6人の受賞候補作(キム・グミ、キム・サグァ、キム・ヘジン、イ・ジュラン、チョ・ナムジュ、チェ・ウンミ)を収録しています。ピョン・ヘヨンの邦訳本には『アオイガーデン』(きむ ふな訳/クオン)、『ホール』(カン・バンファ訳/書肆侃侃房)、『モンスーン』(姜信子訳/白水社)があります。

1210ホテルの窓

 

 

 

 

 

 

2005年、『ヨンイ』でチャンビ新人小説賞を受賞した、キム・サグァの『0 영(ゼロ) Zero 零』(作家精神/2019.11.28)。同社の中編小説シリーズ「小説、ヒャン」の第1作目。ヒャンには香、響、向、郷などさまざまな意味が込められています。食うか食われるかしかない社会で生き残りをかける主人公「わたし」の視線で語られる一人称小説です。

12100 영 Zero 零

 

 

 

 

著名な僧侶たちの著作を集めたコーナーには、詩人で修道女のイ・ヘインさんの新作エッセイ『그 사랑 놓치지 마라(その愛、逃さないで)』(マウム散策/2019.11.25)もありました。「修道院から送る心の詩、散文」という副題のとおり、計44篇の詩やエッセイが収録されています。イさんの暮らす釜山の聖ベネディクト女子修道院を原稿用紙に描いた温かな絵が、表紙を飾っています。(文・写真/牧野美加)

1210イ・ヘイン