教保文庫の年間ベスト10(国内小説)(韓国通信)

2018年の教保文庫の年間ベストセラー(国内小説)が発表されました。1月1日から12月2日までの、全店舗・ネット販売・電子書籍の販売部数を総合した順位です。注目の1位はチョ・ナムジュの『82年生まれ、キム・ジヨン』でした。

全国紙「京郷新聞」(11月28日付)に、16年の刊行当時はそれほど注目を集めていなかった同書が100万部を超えるベストセラーになるまでの流れが、社会的な出来事とあわせて紹介されていました。以下、要約です。文中の【 】は各時点での販売部数です。

17年の「国際女性デー」(3月8日)にある議員が同書を300冊購入して議員仲間に贈ったり【1万5千部】、同5月に別の議員が文在寅大統領に贈ったり【10万部】したことで話題になり、同12月には【50万部】を記録。ある女性検事が検察内部での過去のセクハラ被害を実名で告発した(18年2月)のを機に「#MeToo」運動が広がりを見せ、人気アイドルが同書を読んだことに触れた(同3月)ことなどから、同4月には【80万部】とさらに販売部数が伸びました。同9月には映画化や、主人公キム・ジヨン役を同世代の女優チョン・ユミが演じることが発表され、同11月に【100万部】を突破しました。記事は、「ジェンダー問題の中心に“キム・ジヨン”がいた」と表現しています。

 

1位:『82년생 김지영(82年生まれ、キム・ジヨン)』 チョ・ナムジュ著(民音社、2016.10.14) 

主人公キム・ジヨンを通して、韓国の女性が直面している社会問題、特に就職、結婚、出産や育児によりもたらされる不条理な性差別や苦難を鋭い観察眼で描き出し、女性を中心とした多くの読者の心をとらえました。100万部突破を記念して評論5篇と著者インタビューを加えた特別版も発売されました。すでに訳書が刊行された台湾を含め、世界16カ国での翻訳出版が決まっているそうです。待望の邦訳本は、斎藤真理子さんの訳で筑摩書房より12月8日に刊行され、3刷重版が決定しています。筑摩書房の特設サイトもご覧ください。

82年生まれ

82

82年日本語

 

 

 

 

 

 

 

 

2位:『바깥은 여름(外は夏)』キム・エラン著(文学トンネ、2017.6.28)

どきどき僕の人生』(きむ ふな訳 クオン)や『走れ、オヤジ殿』(古川綾子訳 晶文社)などの邦訳があるキム・エランの小説集。李箱文学賞を受賞した「沈黙の未来」や「若い作家賞」受賞作「どこに行きたいですか」など7編を収録しています。来春、亜紀書房から古川綾子さんの訳で邦訳版が刊行される予定です。

外は夏

 

 

 

 

 

 

 

 

3位:『아몬드(アーモンド)』ソン・ウォンピョン著(チャンビ、2017.3.31)

短編映画の脚本や演出を手がけていた著者の初の長編小説で、第10回チャンビ青少年文学賞を受賞しました。脳の異常のため感情が欠落している少年と周囲の人々との関わりを通し、他人の感情を理解することの難しさや大切さを考えさせるヤングアダルト小説です。

アーモンド

 

 

 

 

 

 

 

 

4位:『인생 우화(人生寓話)』リュ・シファ著(ヨングムスル社、2018.7.30)

韓国を代表する現代詩人リュ・シファの寓話集。東欧で17世紀から語り伝えられている物語をもとにした寓話45編を収録しています。天使のミスでこの世の「愚か者」たちがポーランドの小さな村で暮らすことになり、突拍子もないさまざまな出来事が起こります。著者の初の詩集『君がそばにいても僕は君が恋しい』(1991)は100万部を突破したベストセラーで、邦訳も刊行されました。

人生の寓話

 

 

 

 

 

 

 

 

5位:『채식주의자(菜食主義者)』 ハン・ガン著(チャンビ、2007.10.30)

韓国で「これまでハン・ガンが一貫して描いてきた欲望、死、存在論などの問題が、この作品に凝縮され、見事に開花した」と高い評価を得た、ハン・ガンの代表作です。アジア初のブッカー国際賞を受賞したことでも大きな話題になりました。きむ ふなさんの訳でクオンから邦訳も出ています。

菜食主義者

菜食主義者日本語

 

 

 

 

 

 

 

 

6位:『7년의 밤(七年の夜)』チョン・ユジョン著(ウネンナム、2011.3.23)

発売3週間でベストセラーになり、韓国小説の新たな地平を開いたという評価を受けた長編サスペンス・ミステリー。書肆侃侃房よりカン・バンファさんの訳で邦訳本が出ています。リュ・スンリョンとチャン・ドンゴンによるダブル主演で映画化もされました。

7年の夜韓国版

7年の夜表紙

 

 

 

 

 

 

 

 

7位:『미중전쟁. 1: 풍계리 수소폭탄(米中戦争1:豊渓里水素爆弾)』キム・ジンミョン著(SAM&PARKERS、2017.12.12)

米国・中国・日本・ロシアの利害が絡み合う朝鮮半島で、北朝鮮の核問題をどのように解決できるかを、著者独自の情勢分析を通して提示しています。

米中戦争豊渓里

 

 

 

 

 

 

 

 

8位:『소년이 온다(少年が来る)』ハン・ガン著(チャンビ、2014.5.19)

5.18光州民主化抗争を扱った小説で、命を奪われた少年、その家族、過去の活動で受けた暴力にいまなお悩まされ続ける人々など、章ごとに様々な立場の人物をオムニバス形式で描いています。イタリアの権威ある文学賞「マラパルテ賞」を受賞。ムン・ジェイン大統領が今年の夏の休暇中に読んだことでも注目を集めました。邦訳本も刊行されています(井手俊作訳、クオン)

少年が来る

少年が来る日本語

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9位:『쇼코의 미소(ショウコの微笑)』チェ・ウニョン著(文学トンネ、2016.8.10)

新人作家の初の小説集としては異例の10万部という販売部数を記録し、小説家50人が選ぶ「今年の小説」にも選ばれた作品です。「若い作家賞」を受賞した表題作『ショウコの微笑』をはじめ7編を収録。若い世代の悩みや苦しみを反映させた繊細な感情表現で、多くの読者の支持を得ました。12月25日にクオンから邦訳本が刊行予定です。

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ショウコ日本語

 

 

 

 

 

 

 

 

10位:『해리.1(ヘリ)』 コン・ジヨン著(ヘネム出版社、2018.07.30)

愛のあとにくるもの』(きむ ふな訳、幻冬舎)、『私たちの幸せな時間』、『楽しい私の家』(ともに蓮池薫訳、新潮社)などの邦訳があるコン・ジヨンの5年ぶり、12作目となる新作長編小説です。光州市の特殊学校での性的暴力を告発した『トガニ―幼き瞳の告発』(蓮池薫訳、新潮社)と同じく、架空の都市「霧津市」が舞台となっています。進歩系メディアの記者である主人公は偶然、ある事件の被害者と出会い、その原因を究明する過程で「悪」の実体に直面します。タイトルは登場人物の名前であると同時に、解離性人格障害の「解離(ヘリ)」とも関連づけられています。

ヘリ