青少年のための書店「インディゴ書院」(韓国通信)

 釜山市に「青少年のための人文学書店」を標榜する「インディゴ書院」という書店兼出版社があります。書店なら普通、置いてあるはずのベストセラーや参考書、問題集を扱っていないこと、本を媒介とした討論会などの活動を積極的に行っていることが特徴です。

 昔から本が好きだったという代表のホ・アラムさんは、帰国子女の小学生に絵本や童話を用いてハングルを教える活動を約30年前に始めました。それが評判となり、やがて読書を通した討論教室に発展したといいます。受講者が増えて専用の場所が必要となり、2004年にオープンしたのがインディゴ書院。07年に現在の建物を新築しました。1階に小学生向けの絵本や児童書、2階には中高生や大学生向けの本が、文学 ▽歴史・社会 ▽哲学 ▽芸術 ▽教育 ▽生態・環境―の六つの分野別に並んでいます。子どもたちの品性や感性、知性を養い、精神的に成長するための栄養分になるような本を厳選しているそうです。黒柳徹子の『窓ぎわのトットちゃん』(絵本)、小国士朗の『注文をまちがえる料理店』、野瀬奈津子・矢萩多聞・松岡宏大共著の『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』など、韓国語に翻訳された日本の本も見かけました。

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トットちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 ホさんが主導する討論教室はさらに発展しました。世界で起こっている問題について自分の頭で考え、他者と意見を交換し、よりよい社会を作るために行動していこうと、07年に中高生が中心となって討論会「チョンセチョンセ(정세청세)」を立ち上げたのです。「正義ある社会を夢見る青少年、世界と疎通する(정의로운 세상을 꿈꾸는청소년,세계와 소통하다)」という韓国語の頭文字を取った名前です。毎回、自分たちでテーマを決め、それに沿った映像を見ながら話し合います。相手を言い負かすための討論ではなく、互いの意見を尊重し共感するというコミュニケーションのあり方も学びます。討論会に参加するため全国各地から釜山に集まっていた中高生は、やがて自発的に地元で同様の討論会を立ち上げました。09年には同じテーマの討論会を全国6都市で同時開催。その後も1~2カ月に1回のペースで各地で同時に開催していて、これまでに討論会が開かれた都市は計36カ所。参加者は毎回、全国合わせて数千人に上るそうです。

 本を読み、討論を重ねるだけでなく、中高生や大学生の記者団が企画、執筆を手がける季刊誌『INDIGO+ing』も06年から出版されています。10年には世界各国の碩学からの寄稿を集めた英語版の雑誌『INDIGO』も創刊されました。そのほか、中高生が本を読んで直接話を聞いてみたいと思った著者を、インディゴ書院が招待して対話の場を設けるというイベントもあります。大型書店の著者サイン会や本のPRイベントとは違い、意義のある対話や討論ができると評判です。また、08年から隔年で青少年向けのブックフェアも開催しています。これは次回ご紹介します。

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 さらにインディゴ書院は、敷地内で「エコトピア」という食堂も運営しています。生態や環境関連の本を読んだ中高生たちが、環境にやさしい食事を実践しようと企画した食堂で、カレーライスや豆腐ビビンバ、豆腐ステーキ、野菜グラタンといった菜食料理がメニューに並びます。

カレー

セミナー室

 

 

 

 

 

 

 

 最後にもう一つ。インディゴ書院は、数多くの学習塾が密集することで有名なエリアに位置します。受験に備えて画一的で受動的な勉強をする塾と、本を通して学んだことを仲間と共有し能動的に実践する力を養うインディゴ書院は、とても対照的だと感じました。厳しい受験戦争や競争社会で視野が狭まりがちな子どもたちが、インディゴ書院のような書店や本を介して広い世界にも目を向け、可能性を広げていけたらいいなと思います。(文/写真:牧野美加)

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インディゴ書院

住所:釜山市水営区水営路408番ギル28

電話:+82-51-628-2897

営業時間:10~19時

定休日:月曜日

HP:www.indigoground.net