韓国の「ジャンル小説」の流れを見る②

韓国のジャンル小説について、『日本語で読みたい韓国の本-おすすめ50選』第3回に掲載のコラムを引き続きご紹介します。

純文学にも影響

ジャンル小説と同様に、最近は純文学にも少しずつ変化が起こっている。ミステリーや推理、スリラー、SFなど、純文学の作家によるジャンルの技法を用いた作品が出版されているのだ。こうした作品群は一部で中間小説、またはスリップストリームと称されてもいるが、それはあくまでも以前の小説群と異なる特性を区別するためであって、特別な意味はないと考える。しっかりした文章と表現力で武装したこの作品群は、東野圭吾を代表とする日本のミステリー、『白雪姫には死んでもらう』を代表とする欧州のミステリー、『CSI科学捜査班』を代表とする米国の捜査ドラマ、『シャーロック・ホームズ』を代表とする英国の推理ドラマなどでジャンル小説の醍醐味を享受してきた韓国の若い読者層に、斬新な面白さを提供している。

これらの作品群を代表する作家が『7年のあいだの夜』『28』と、連続ヒットを飛ばしているチョン・ユジョンだ。『7年のあいだの夜』は、7年前に12歳の女の子の首を絞めて殺害した挙句、女の子の父親を棒で殴り殺し、自分の妻すらも殺して川へ投げ捨て、ダムの水門を開いて警官4人と村人を水死させた狂気の殺人鬼の息子ソウォンが、7年前の事件の真実と対面する過程を描いた小説だ。この小説は推理とスリラーの技法を使って事件の真相を追っていくのだが、読者はリアリティとハラハラドキドキの連続であるジャンル小説の面白さに喝采し、作家が作り上げた想像の世界に夢中になった。

注目すべきジャンル小説

それ以外のジャンル小説、ジャンル小説に近い作品をいくつか紹介したい。南北統一後の世界を描いたイ・ウンジュンのノワール小説『国家の私生活』、映画『ミステリー・オブ・ザ・キューブ』のシナリオ作家であるチャン・ヨンミンが書いたファンタジー&スリラー小説『究極の子』、SFの想像力を活用したペ・ミョンフンの『タワー』、SFの想像力プラス、スリラーと災難の恐怖l9788925704135という小説のコードをうまく調和させたキム・イファンの『絶望の球体』、実体と幽霊の区別がつかない奇妙な時空間で、事実と虚構の境界を突き崩すイ・ジャンウクの独特な短編集『告白の帝王』、中世の世界観の中で天才音楽家に対する嫉妬、愛、陰謀をファンタジーとミステリー形式で描いたハ・ジウンの『氷の樹の森』、便利屋の職員だった主人公を通して、日常のミステリーとノワールの境界を行き来しながらキャラクターの面白さを満喫させるパン・シヨンの『曇り時々雨、または豪雨』、力と感性を同時に持ち合わせた個性あふれる10編の推理ドラマの饗宴、ソ・ミエの『ありがとう、殺人者』、凶悪な犯罪に対する完全な審判という重いテーマを、反転に次ぐ反転で解き明かしていくパク・ハイクの『終了いたしました』などは、日本で出版しても注目に値する秀作といえる。

ジャンル技法への期待

こうした一連の変化は、一部のマニアのみが持っていたジャンル小説やジャンルの技法が、勢いを付けて徐々に拡散していることを意味する。それを肌で感じることができる場所が映像メディアだ。ロマンスや家族愛をメインに扱ってきた韓国ドラマでも、地上波・ケーブル放送を問わずジャンルの技法を用いた映像作品が増加しつつあることを、目の当たりにすることができる。その他に映画・ウェブトゥーン・ゲームなど様々なメディアでも、ジャンル小説やジャンルを用いた技法の影響力が拡大している。
ジャンル小説やジャンルの傾向を持つ小説がさらに出版されることで、不況が叫ばれている韓国の小説界が多様性と販売量の面で潤ってくるのではないかという期待感を抱かせる。同時に作品が日本でも数多く紹介されることで、両国の様々な文化交流が行われると同時に、互いの刺激剤になることを願ってやまない。

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