
旅のプログラムはこれで終了したが、金さんと純子さんと、夕食を食べに行くことに。ホテルの近くで探そうということでまずはホテルに向かう。が、道が分からない。頼りの金さんは日本暮らしが長いせいか方向音痴なのか、あまり頼りにならず。純子さんがしっかりしてくれていたお陰でなんとかホテル近くまでたどり着くことが出来た。純子さんのリクエストで韓定食のお店に入る。韓国の伝統食が食べられるお店のようだ。チャプチェやポッサム、チヂミ、テンジャンチゲなどを食す。チャプチェが美味しすぎて箸が止まらなかった。途中からヒマールのご主人の方、文俊さんも合流。4人で夕餉を共にした。ビールに焼酎を入れる韓国流の飲み方を金さんから教わる。あまりお酒が得意ではない私、すぐにくらくらとしてきてしまう。ので、以降はチビチビとだけ飲んだ。とても楽しい時間だった。ツアーは皆ペアで参加の中、私のみ1人での参加。素敵な出会いがあって本当によかった。
次の日、午前中は金さんと国立民族博物館へ。
2日目は終日自由行動だったため、色々と行きたい場所を事前にリストアップしており、その中に国立民族学博物館も入っていた。偶然にも前日、金さんが行く予定だと話していたので、同行させてもらうことになったのだ。
民族博物館に行こうと思ったのは、知人に行くべきと勧められたためだ。現在岩手大学で韓国文化論等を教えている教員で、以前は大阪の国立民族学博物館で研究員もしていた人だ。私は高校から大学まで郷土芸能に携わっており、その関係で出会った。彼女が言うならまず間違いない、行かなければと思ったのだった。
道中、金さんが手がけている事業のこと、どうして今の仕事をしているのかということを聞いた。私は今回の旅で初めて金さんに会い、金さんのことを知った。ネットで検索してみるとインタビュー記事等たくさんヒットした。K-BOOKブームの火付け役の1人だと知った。それを話して「金さんってすごい人だったんですね」と言ったら、「何もすごくないよ。やりたいことやってるだけ。」と金さんは言った。心からそう思っているようだった。昨日、「頼りない」って言ってすみません。金さんやっぱりすごい人だ。
博物館では「お面展」が開催されていた。日中韓のお面が様々展示されていた。我が岩手県の早池峰神楽の面も展示されており、こんなところで出会えるとは…と奇妙な感動を覚えた。3ヶ国の獅子舞の比較は、三者三様個性がありなかなか面白いものがあった。
人は「面」を被ることによって自分の心を表す。或いはその逆で隠している。神事で用いられる面であればそれを着けることによって神に成り代わる。神の化身となるのである。
ある意味では現代人も誰しも見えない「面」を被っているのだという文章が添えられていた。色々と考えを巡らせた。日本人も韓国人も中国人も、その他の国の人たちも皆人間だ。国籍、人種、民族、性別は面の様なものではないだろうか。アイデンティティを形成する見えない面。
この日、午前中を金さんと過ごし、午後は1人で行動した。韓国語がさっぱりなので不安に思っていたのだが、杞憂に終わった。どこの店でも日本語が通じるからだ。そして誰もが親切で優しかった。
夕方、明洞のメインストリートで反日デモに遭遇した。私は生まれてこの方デモというものを経験したことがなかった。まずはものすごい迫力に気圧されてしまった。韓国伝統の楽器を打ち鳴らし、女性の声が力強く演説する。横断幕や小旗を持った大勢の老若男女が行進する。警察も沢山出動しており、デモ行進と一緒に歩道を進む。私は彼らが何を訴えているのかを探った。ハングルは分からない。でも「NO JAPAN」の旗を見た。親日派の自国の現大統領を批判する文章もあった。
かつて日本が犯した罪。朝鮮人から国と言葉と誇りを奪い併合した。その歴史を考えたら、「昔のこと」と割り切れるはずもない。直接経験していなくとも、己の親が、祖父母が屈辱を強いられたことを許せるだろうか。どうしたらいいか分からず、でも目が離せなかった。周りの若者たちはデモ隊に殆ど目もくれなかった。彼らには日常の風景なのだろうか。私はデモとは進行方向逆方向に、ただ歩を進めた。いつの間にか涙が溢れた。自分には何が出来るだろうか。
同じ人間なのに憎しみ合い、殺し合う。デモを見て、博物館で見た面のこと、親切で優しかったお店の人たち、日本と韓国とを繋いでいる金さんのことを考えた。もっと知りたい、色々なことを。世界から憎しみを無くすためにはどうしたらいいだろうか。その日、鬱鬱と考えた。ノーベル平和賞をとるような、例えばキング牧師やマザーテレサのような大それたことは出来ない。少なくとも今の自分には。
まずは目の前のことを一生懸命にやろうと思った。先に書いたように、本は人格そのものだ。たくさんの人が本を読んで、考えて欲しい。そして自分も考え続ける。まずは日本に帰ったらK-BOOKフェアの準備をしよう。韓国についてもっと知りたい、そして知って欲しいから。
韓国は日本とすごく似ていたけど、全然違くて、それでもやっぱり同じだった。旅でこんなに色々なことを考えたのは初めてで、すごく疲れた。でもこの上ないくらいすごく楽しくて、この旅での出会いの全てがハイライトだ。みなさん、心から有難うございます。また会う日まで。